食の安全を脅かした汚染米 官業癒着…農水省の“罪”とは−

汚れた米が日本各地にばらまかれた責任は誰にあるのか。大阪の米加工販売会社「三笠フーズ」から始まった事故米の不正転売問題は、芋づる式に4社の不正業者が発覚し、大騒動になっている。いまになって血眼で調査している農林水産省だが、ずさんな検査で不正を見逃し続けた張本人は農水省の役人たちだ。膨大な事故米を早くさばきたい農水省と、「ぬれ手で“米”」の転売で大もうけしたい業者。この利害一致に世間は疑惑の目を向けている。官業癒着があったのでは…。平成版米騒動を生んだ農水省の役割とは−。

本省が紹介していた三笠フーズ

 平成18年11月2日。農水省の出先機関、北海道農政事務所(札幌市)を、見慣れぬ白髪の男性が訪れた。職員がいぶかしげな目で見る中、男性は「三笠フーズですが…」と名乗った。事故米不正転売の“実行役”とされる冬木三男社長(73)。

 この日は、農水省が保管するカビなどで汚染されたベトナム産の事故米など30トンについて、買い取り業者を決め、契約を結ぶことになっていた。

 この場に出席予定の業者は三笠フーズを含めて6社。ほかの5社は契約実績があり、農政事務所に来たこともあるが、三笠フーズは初めて。いずれも農政事務所が呼んだ業者だ。

 事故米は本来の用途が工業用に限られ、なかなか需要がないことから、業者も農水省からの買い取りに二の足を踏む。このため、農政事務所の通知だけでは業者が集まらず、わざわざ業者を呼ばなければならないのが実態だ。通常の公共事業のように、業者が利益率の高い“甘い蜜”に群がる構図とは異なっている。

 「事故米を買いそうな業者はいませんか」

 契約の数日前、北海道農政事務所の担当官は東京・霞が関の本省に電話で問い合わせ、紹介されたのが三笠フーズだった。担当官は「聞き慣れぬ名前」だと思ったが、本省の紹介通り三笠フーズを呼んだ。

 6社のうち、農政事務所に来たのは三笠フーズと愛知県の「太田産業」だけ。ともに後に不正転売が発覚した業者だ。事故米は結局、太田産業より高い価格を申し出た三笠フーズに売却されることになった。30トンの価格は約11万8000円だった。

 その後、三笠フーズは北海道農政事務所の“お得意さま”になり、計3回にわたって事故米を購入した。その一部は、発がん性物質のカビ毒「アフラトキシンB1」が検出された中国産の事故米。この事故米の一部は後に食用として転売され、焼酎の原料として九州の焼酎メーカーなどに流れたとみられている。

事故米を売らなければクビ…という噂まで

 「『輸入米を早く売りたい』、そういう気持ちがあったのは十中八九まちがいない」

 ある農水省幹部は、農政事務所の気持ちをこう代弁する。

 事故米のほとんどは、日本の米市場の開放が求められた関税貿易一般協定(GATT)ウルグアイ・ラウンドの合意(平成5年)に基づき、7年度から年間77万トンの輸入を義務づけられているミニマム・アクセス(MA)米に含まれている。

 この6年間に農水省が抱えた事故米は、約7400トン。倉庫の保管料は1トン当たり年間で1万円程度かかり、売れなければそれだけ税金がつかわれることになる。

 「事故米を早く売却しなければ」。それは農水省にとって重要課題になっていた。本省が18年4月に、事故米を早期に売却するよう各農政局に通知が出されたこともあるほどだ。

 「本省は『事故米を売れない職員は辞表を出せ』と言っているらしいぞ」

 地方の農政事務所の職員の間でも危機感は強まり、こんな噂まで出回るようになっていた。

 農水官僚たちのそんな気持ちを逆手にとったのが、三笠フーズだった。

 冬木社長はとにかく事故米を買いあさった。各農政事務所で行われる事故米の入札を自ら飛び周り、「工業用糊(のり)」用などとして安く購入した。1キロ5円程度の事故米は、食用として偽って販売すれば、10倍の50円になる。まさに「ぬれ手でアワ」のビジネスだった。

 平成15〜20年度で農水省が売却した事故米のうち、三笠フーズは4分の1に当たる1779トンを買い占めていた。

 「あんなに事故米の需要があるのか…」

 首をひねる業界関係者も多かったが、農政事務所は引き取り手の少ないMA米の中で、さらに食べることもできない事故米を引き取る三笠フーズを重宝した。

甘すぎた検査、向けられる疑念の目

 事故米はきちんと工業用に加工されているか−。三笠フーズに対して、農水省は96回の立ち入り検査を行った。しかし、食用への不正転売は一度も見つけられなかった。それもそのはず、農水省は検査前に「あす検査に行くが、いいか」と三笠フーズに電話連絡していたのだ。

 事前連絡を受けた三笠フーズ側はどう対応していたのか。

 農水省の担当官は、事故米が工業用の米粉に加工されるのを確認すると、虚偽の台帳を見ながら、工業用袋に詰められた事故米の山を確認して帰っていく。担当官が帰ると、すぐに加工機械は止まり、米粉は食用の袋に詰め替えられた。

 昨年1月には「三笠フーズが事故米を食用に横流ししている」という匿名の封書が届き、農水省は緊急に抜き打ち検査したが、そのときも担当官は虚偽の台帳を見て、三笠フーズを「シロ」と認定していた。

 「検査というより、現場で作業を確認するため、立ち会っているだけだったようだ」

 ある農水幹部は自嘲気味に話した。

 今月18日。閉会中の国会で不正転売問題について審査が行われた際、農水省のこうした甘い検査態勢に批判が集中した。

 衆院農林水産委員会で民主党の筒井信隆委員は「食用への転用を予測していたのか」と核心をついた。町田勝弘総合食料局長は「していませんでした」と否定し、「いわば(三笠フーズなど業者について)性善説で考えていた」と弁解。しかし、筒井委員を含め、多くの委員が疑心を解消することはできなかった。

 「転用されると知っていたのではないかと思いますがね…」。筒井委員の発言に、農水省側からの返事はなかった。

露呈する官業癒着の一端

 不正転売をめぐって、9月19日に太田誠一農水相と白須敏朗事務次官が引責辞任した農水省だが、業者との癒着については必死で打ち消そうとしている。しかし、その一端はすでに露呈し始めている。

 大阪農政事務所の元消費流通課長(62)が現役時代、冬木社長ら三笠フーズ幹部に飲食接待を受けたことが判明した。消費流通課は米の販売流通などを管轄し、事故米の売却や転売の監視を行う部門。監督役が不正業者のお抱えで飲食していたわけだ。

 元課長は農水省の調査に「仕事の話はしていない」と説明し、検査に手心を加えるなど便宜を図ったことは一切ないとしている。接待は三笠フーズが経営する居酒屋で2度受けただけとされるが、省内でも「本当にそれだけなのか」「何も便宜を図っていないと言い切れるのか」といぶかる声や、不安を抱く声が絶えない。

 実際に、大阪農政事務所の別の職員が、三笠フーズに便宜を図った疑惑も浮上している。

 三笠フーズの財務担当者の証言によると、この職員は、本省が三笠フーズの事故米大量買い付けに不審を抱いたことを知り、本省の動きを三笠フーズ側に伝えて、「行動は慎重に」と忠告していたという。

 この証言が事実なら、農政事務所には三笠フーズへの“内通者”がいたことになる。現時点では、職員は「『本省が関心を持っているので行動は慎重に』と言ったことはない」としており、農水省も忠告や内通を全面否定しているため、真相は不明だ。

 ただ、職員は「(三笠フーズが購入する外国産米の)用途を本省から質問されたため、質問があったことを伝え、適正に使うように指導した」と、本省からの質問を知らせたこと自体は認めている。

進む捜査 農水省の苦悩

 農水省自身も癒着の存在を恐れていた節がある。

 元消費流通課長の接待が発覚、官業癒着の一端がかいま見えたのは9月15日。その前日に一部報道機関の取材を受けた農水省は15日未明に慌てて元課長から事情を聴いたが、実はその数日前から農水省は職員の飲食接待などがないか、ひそかに調査を開始。これまでに米の流通部門に関与した職員約7000人を対象に、農水省は現在も調査を進めている。

 「もし不正を助けた者がいるとしたら、できればウチの調査で見つけて、処分しなければ。警察に見つけられたんじゃ、本当に格好悪い」(幹部)

 事故米の不正転売をめぐっては、大阪、福岡、熊本の3府警で組織する合同捜査本部が24日、食品衛生法違反と不正競争防止法違反の容疑で三笠フーズ本社など関係先28カ所を一斉捜索した。

 捜査の過程で、農水省と三笠フーズの癒着も調べられるとみられる。

 「捜査が一体どこへ行くのか。場合によっては、いまよりも農水省にとって厳しい現実をたたきつけられることになるのだろうか」

 不安な顔つきを見せる農水省幹部もいる。

 国民の食の安全を脅かした不正転売。本来、食の安全を守るべき農水省がこの問題の助長に果たした役割は大きい。検査の事前通知、監視役職員への飲食接待、内通疑惑…。捜査はまだ始まったばかり。今後、新たな官業癒着の構図が浮き彫りになることがあるのか、注目される。

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